風鈴神社

自然の囁きを声として反復することでメロディーを生み出すブログ兼放射性廃棄物処理場。はじめての方は「☆☆☆」か「はじめての方向けの引用」のカテゴリーからどうぞ。

ゲーム世界の住人

ゲーム世界の住人になってどれだけの年月が経っただろう。初めのころは、のっぺらぼうのような顔をした住人がひたすらわけのわからない言葉で話しかけてくるので適当に相槌を打つだけで終わった。とてもじゃないが逃げる気力がわかなかった。やがてそのことに彼らが気づくと、身振り手振りで説明しようと企てたが物覚えが悪いので何を指しているのかぜんぜんわからなかった。そこで彼らはとにかくやってみろと魔法のようなものをかけて直接私を動かして何かを練習させようとしたが、私としてはひたすら困惑するばかりだった。やがて一通りのことがすべて徒労だとわかると、彼らは諦めて悲しそうな顔をして去っていった。その後いったい何をしていいのかわからなかった。とりあえず死んでみようと思って、そこらへんで死んでみたが元の場所に戻るだけだった。何度試してみても同じなので、私はその場に座ってひたすら片言を繰り返すようになった。話しかけられたら片言を話し、襲われたら片言を話し、データ的にも片言を話した。そしていまや立派なNPCになっている。後はデータが消えてすべてが無くなるを待つばかりだ。ある日、冒険者の一行がやってきて私を殺した。そうすることで進むべき道は示され、物語は開始され、死んだものとしてデータ的に処理された。それ以来私が座っていた場所には、なぜか魔物たちがよく集まるようになったという。