風鈴神社

自然の囁きを声として反復することでメロディーを生み出すブログ兼放射性廃棄物処理場。はじめての方は「☆☆☆」か「はじめての方向けの引用」のカテゴリーからどうぞ。

ユディトとホロフェルネス

ホロフェルネス率いるアッシリア軍がイスラエルに対して宣戦布告し、そのための戦略として水源を断ち、ユダヤ人たちの水がめの水もなくなり、神が五日の間に救ってくださらなければ、投降しようと代表者たちが会議で決めたとき、ユディトとしては神の律法を守ることが最も大事なことであったので、ホロフェルネスに対する嘘や断首や飲み食いは問題ではありませんでした。神の律法を守るということはイスラエルの繁栄を約束するものであり、それ以外のところに神を教えを考えることなどできるはずがなかったのです。彼女の嘘は実に巧妙で大したものであるのをみれば彼女がイスラエルにとっていかに洞察力あり、神への信心ある人間であるかがわかります。彼女は神に試みを行い、神への信仰を喪った民衆に対して立派で気高い態度を示しました。そんな彼女は神を信仰を守るためにしたことといえば、それは彼女自身が神の道具となってホロフェルネスを殺すことでした。ホロフェルネスとしてはユディトがイスラエルは罰せられるべきであるといい、偉大なる王であるネブカドネツァルに対するお世辞をすらすらと言った時、どんな気持ちであったのでしょうか。アッシリア軍の食事を断り続けた彼女にとって、ホロフェルネスに祝いの食事と誘惑を持ち込まれたとき、ユディトにとっては彼女の夫が日射病で死んだ後の唯一のチャンスでした。イスラエルの掟に従いつつ女としての性を果たすことができます。きれいに着飾れる機会もこれ以降は二度とないでしょう。しかしユディトはその唯一のチャンスにホロフェルネスの首を切り落とすのです。ホロフェルネスの首を食事入れの袋に詰め込みイスラエルの前に出て首を見せたときほど彼女が美しかったことはありません。ボッティチェッリの描くユディトの絵と堅忍の徳の女性とを重ね合わせてみたい気分に駆られます。いずれにしても彼女が律法を守り、イスラエルの危機を救ったのは事実です。民衆は単純でした。神の栄光はユディトが敵将の首を切り落とすということで満足したのです。神の奇跡を信じていた民衆はユディトの冒険の話に歓喜し、彼女の命令で主将の首がないことを発見したことでパニックを起こし敗走したアッシリア軍を討ち滅ぼしました。何という気高い栄光でしょうか。まさしく唯一の主の勝利です。ただし彼女は略奪したものの中のホロフェルネスの部屋にあった天蓋の垂れ絹を触れてはならぬものとして神に奉納することは忘れませんでした。その後、ユディトは高名になり、たくさんの人から言い寄られましたが、そのことごとくを断り、やもめとしての一生を立派に暮らしたそうです。