ため息の居場所

小説家が退屈しきっているということは読者はそれに輪をかけて退屈しきっているということである。都合のよさは凡人がいかに勝利したかを物語っており政治的義憤ですら単なる口実にすぎない。現代の闇などを書いたところでまったく大したことにはならないだろう。ただまたかと思うだけである。この種の退屈さあるいは面白さへの傾倒は腐敗を見逃させるのに都合のよい役割を果たしているといえる。今必要なのは断固として不正に立ち向かう小説的な面白さのない人物だからである。だから享楽的な老人たちは自分はもう気力はないと抜かしながら若者を退屈しのぎとして利用するのだ。そこでうまい連中は不正に立ち向かう幻想を売って金を儲けるわけだ。これは誰もが納得するやり方だからうるさい政治団体以外は不満が出てこない。老人と若者の軋轢という話題で本をだすこともできるくらいだ。もちろんカントやロベスピエールよろしく狂信的な頑固さが登場するかもしれないが現在の我々からすれば感動を与えてくれるとしてうっとりするだけだろう。快楽主義は思考の衰弱というよりは思考が空虚な苦痛にしかならなくなったことの帰結である。これが行き着けばストア派や仏教になる。つまり腐敗や堕落は感覚を取り戻すための懸命な努力ということになる。ゲームの感覚主義は身ぶりの訓練として一つの意義を持つが思考が表象にしかならなくなるため根本的には浅薄な計算機械か俳優になるにすぎない。私は重苦しい気分からの解放というこの貴重な効果を過小評価しないつもりだ。しかしなんといってもゲームは数学的な分析によってその有効さを保持しているのであって、思考の繊細さというものを与えてくれるわけではない。スパイ戦争紛いのものを繰り返したところで深さには決して達しないわけだが、裏切りを計算の対象にしてくれるのはスターリン主義を防ぐために尊重すべきだと言える。そしてなぜ少女かについてだがこれは小賢しい教養の戯言を無視させ女性の魅力を取り戻させるという深遠な働きがあるのだ。全体的に見るとゲームはゲーム以外のあらゆる経験を破壊するのだとしても退屈さを聖なるものとして信仰するよりは面白いと感じざるを得ない。ただ天才とか偉大とかいう言葉がひたすら濫用されるのはいただけない。天才は、少なくとも偉大な天才は趣味への意志しかないクリエイターや表現の狂信者にすぎない技術者や歌って踊れる大衆煽動家に与えられるべきではない。